前回は、AIで志望動機を誰でも整えられるようになり、企業が文章から学生を判断しにくくなったと書いた。同じことが、逆の向きにも起きている。
採用サイトにも就活サイトにも、「挑戦できる環境」「若手が活躍」「風通しのよい職場」といった言葉が並ぶ。どれも整っているが、どの会社にも当てはまる。学生が知りたいのは、その先だ。文系から開発職に進めるのか。配属はどう決まるのか。その仕事で何が身につくのか。
こうした質問を、人事担当者ではなくAIに投げる学生が増えている。前回も引いたマイナビの調査では、2027年卒の学生の84.9%が就職活動でAIを使い、47.6%がAIに就職活動の相談をしたことがあった。1 AIは、ESを整える道具であるだけでなく、就職先を考える相談相手にもなり始めている。
企業が目指すべきなのは、学生にAIを使わせないことでも、AIに好かれることでもない。学生と学生のAIが、企業を正確に知り、比べ、質問できる状態を整えることだ。前回提案した職種別の長期インターンも、その仕事の中身が伝わらなければ、学生は応募するかどうかを決められない。
書くべきは、会社のイメージより仕事の中身
例えば、学生が自分のAIにこう相談したとする。「商品企画に興味がある。在学中は週2日働ける。入社後の職種が事前にわかる会社を探したい」。
LinkedInは、希望する仕事を自然な文章で入力すると、その意図を求人と照らし合わせるAI検索をすでに提供している。2 AIを通じて仕事を探す道は、もう開いている。そのとき「若手が活躍」「挑戦できる環境」としか書かれていなければ、AIにも学生にも、条件に合うかどうかは判断できない。
職種ごとに、次のことを書きたい。
- 任せる仕事と、求める成果の水準
- 必要な知識やスキルと、入社後に身につけられること
- 勤務地、勤務条件、給与・諸手当
- 研修と指導の体制
- 配属の決まり方。何が決まっていて、何が未定か
- インターンの内容と、正社員採用につながる条件
形容詞も、具体的な事実に置き換える。「裁量が大きい」と書くなら、何を自分で決められるのか。「充実した研修」と書くなら、期間、内容、教える人は誰なのか。「希望を考慮して配属」と書くなら、最終的にどう決まるのか。
魅力だけでなく、難しさや制約も書く。繁忙期、転勤の可能性、顧客対応の負担、希望と違う業務を担当する可能性。条件を伏せて入社者を増やしても、入社後に期待と現実が大きくずれれば、どちらにとってもよい採用ではない。
前回、長期インターンを「入社して初めて知ることを、入社する前に確かめる」時間だと書いた。採用サイトは、その手前で、確かめに行く価値があるかを判断する材料になる。
AIで価値が下がるのは、見栄えのよい文章だ。仕事を正確に伝える文章の価値は、むしろ上がる。
自社サイトに、職種ごとのページを置く
学生の就職先探しは、これまで大手の求人ポータルや合同説明会が入口だった。これからも大切な入口であることは変わらない。ただ、自社の採用サイトまで、ポータルへの案内だけで済ませてよいわけではない。
先ほどのような相談を受けたとき、AIが参照できるのは、公開されている情報だけだ。ポータルに載せた短い会社紹介しかなければ、材料は乏しい。自社サイトに職種ごとの情報があれば、学生はそれを読んで判断でき、AIも読み取れた範囲で整理できる。
だから、まず自社採用サイトのSEOを見直す。職種ごとに固有のURLを持つ求人ページを用意する。仕事内容と条件を、画像やPDFの中だけでなく本文のテキストに書く。ページどうしを適切につなぎ、検索エンジンが内容を取得できるようにする。条件が変わったら更新し、募集が終わったページを放置しない。
求人ページには、Googleが案内するJobPosting構造化データを使う手もある。Googleの求人検索に情報を伝え、専用の検索結果に載る対象になるための仕組みだ。ただし、掲載を保証するものではない。3
SEOとAIへの対応は、特別な成長施策ではなく、これからの企業が最低限整えるべき採用の基盤になると思う。ポータルをやめる話ではない。外部の媒体と、自社が責任を持って更新できる情報の両方を整えるという話だ。
学生が、自分のAIに持ち込めるようにする
採用サイトを訪れた学生が、こんな操作をできたらどうだろう。
- このページをMarkdownでコピー:仕事内容や応募条件を、見出しや表を保ったままコピーする。
- 採用情報をまとめてコピー:募集要項、給与、配属、研修、インターンなど、関連する公開ページを一つにまとめる。
- 自分のAIに相談する:コピーした内容をChatGPTやClaudeなどに渡し、「この会社は自分の希望に合うか」「ほかに何を確かめるべきか」と聞く。
大事なのは、企業のチャットボットだけを窓口にしないことだ。学生には、すでに使い慣れたAIがある。そこには、自分の希望やこれまでの相談の経緯がたまっているかもしれない。会社ごとに別のAIへ同じ説明を繰り返すより、公式の情報を自分のAIに渡せるほうが便利だ。
Markdownはこの用途に向いている。見出し、箇条書き、リンク、表の構造を、画面の装飾抜きで渡せる。Cloudflareも2026年2月、サイトのHTMLをリクエストに応じてMarkdownで返す機能を発表した。4 このブログも、各ページを同じ原稿からHTMLとMarkdownの両方で配信している。
ただし、MarkdownにすればAI検索で上位に出る、というわけではない。Googleは自社のAI検索機能について、特別なAI用ファイルやMarkdownは必要なく、重要な内容をテキストで提供し、構造化データを表示内容と一致させるよう案内している。5 この提案は検索順位の裏技ではない。公式の採用情報を、人にもAIにも使いやすい形で届けるためのものだ。
コピーする内容には、出典のURL、更新日、対象の職種を添えたい。募集の条件が変わった後も、古い情報が正しいものとして使われ続けないようにするためだ。また、コピーされるのは公開情報だけだと明示する。応募履歴や相談内容など、学生の個人情報が紛れ込んではいけない。
公式のAI採用担当を置き、相談を選考から切り離す
それでも、ページを読むだけでは解決しない疑問がある。
「募集要項に理系歓迎とあるが、文系の自分でも応募できるのか」「海外勤務に興味がある。最初の配属から希望できるのか」「長期インターンには週に何時間参加する必要があるのか」。
学生の疑問は、一つのページに収まらない。そこで、各社が公式のAI採用担当を置く。採用サイト全体の公開情報をもとに、一つの窓口で質問に答える。
よくある質問を並べただけのチャットボットとは違う。職種や条件をまたぐ質問に答え、関連するページを示し、わからないことは「確認が必要」と伝えて人事担当者につなぐ。例えば開発職を志望する文系の学生には、応募資格、必要な基礎知識、入社前にできる学習、参加できるインターンまでを、公開情報に沿って案内する。
AIにさせないことも決めておく。公開していない選考基準を推測しない。採用の可能性や配属先を約束しない。回答には参照元と更新日を付ける。込み入った相談や、回答への異議は人が引き受ける。
さらに重要なのが、相談を選考の評価から切り離すことだ。「この会社は残業が多いですか」「自分の経歴は不利になりますか」と聞いた履歴が評価に使われるなら、学生は率直に聞けない。相談ログを残す範囲、使う目的、消す方法をはっきりさせ、選考には使わないことを原則にしたい。
AI採用担当は、候補者をふるい落とす係ではない。学生がその会社で働くかどうかを、納得して考えるための窓口だ。企業が選ぶだけでなく、学生も選ぶ。前回の考え方は、ここでも変わらない。
学生のAIが、企業のAIに問い合わせる日
ここからは予測だ。
いずれ学生は、企業を一社ずつ調べる代わりに、自分のAIに「希望する勤務地、職種、給与、学びたいことに合う会社を比べて」と頼むようになるかもしれない。学生のAIが各社の公開情報を集め、足りない点を公式のAI採用担当に問い合わせる。人はその結果を見て、実際に会ってみたい会社を選ぶ。
そう考えると、企業が最初にすべきことは、派手なAI採用担当を作ることではない。自社の採用情報を、正確に取得できる状態にしておくことだ。
公開する求人情報が一つの原本から作られていれば、学生本人が読むときも、自分のAIにコピーするときも、公式のAIが答えるときも、将来AI同士が問い合わせるときも、同じ情報が使われる。反対に、情報がばらばらなら、入口を増やすほど誤りが広がる。
もちろん、AIに薦められた会社だけが選ばれる世界が、無条件に望ましいとは思わない。情報を多く出せる大企業ばかりが有利になるかもしれないし、AIの判断が学生の選択肢を狭めるかもしれない。だからこそ、学生自身が原文を確かめ、比べる基準を変え、直接質問できる状態は残しておきたい。
何から始めるか
大がかりなAIの仕組みを入れなくても、できることは多い。
最初に、採用情報を整える。 自社サイトに職種別の求人ページを用意し、最新の状態に保つ。仕事内容、応募要件、給与、勤務地、配属、育成、仕事の難しさ、インターンと採用のつながりを書く。SEOの基本と、適切な構造化データにも対応する。
次に、学生がその情報を持ち出せるようにする。 ページごとのMarkdownコピーと、関連ページをまとめて持ち出す手段を用意する。必要に応じて、AIが読み取れるMarkdownでも配信する。どれも同じ原本から作り、更新のずれを防ぐ。
その先に、公式のAI採用担当を置く。 まずは公開情報を正確に案内することから始め、答えられない質問は人に回す。学生が何を聞いているかを、個人を特定しない形で把握し、採用ページの足りない部分を直していく。
効果を見るなら、閲覧数やチャットの回数だけでは足りない。学生の疑問が解決したか。応募後に条件を誤解していた例が減ったか。インターンや面接で、お互いの認識のずれが小さくなったかを確かめたい。
AI時代に企業が目指すべきなのは、AIに好かれる会社ではない。AIを使って調べても実態が伝わり、人が納得して選べる会社だ。
採用サイトに「この仕事で何が身につくか」と書けば、それは入社後に守るべき約束になる。次回は最終回として、AIが幅広い仕事をこなす時代に、企業が入社した人をどう育てるかを考える。
本稿は2026年10月14日時点の公開情報に基づく見解・提案。学生のAIと企業のAIが採用情報をやり取りする仕組みなど、将来の可能性は予測として記述している。
出典・注記
- 株式会社マイナビ「マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査4月<就活生のAI利用について>」、2026年5月26日公表。調査期間は2026年4月25~30日。有効回答1,258人。マイナビ会員を対象にした調査で、学生全体を無作為抽出したものではない。 ↩
- LinkedIn Help, “Discover new opportunities with AI-powered job search”。自然文による求人検索の公式説明。本文の商品企画・週2日勤務の相談は、説明のために作成した仮想例。 ↩
- Google Search Central, “JobPosting structured data for Job Search”。Googleの求人検索に求人情報を伝える構造化データの仕様。掲載を保証するものではない。 ↩
- Cloudflare, “Introducing Markdown for Agents”, 2026年2月12日。サイトのHTMLを、リクエストに応じてMarkdownに変換して返す機能の発表。 ↩
- Google Search Central, “AI features and your website”。GoogleのAI Overviews・AI Modeに関する案内であり、すべてのAI検索サービスに共通する仕様ではない。 ↩